橋本イニシアティブ
目次
橋本イニシアティブによる地球規模の学校保健
1998年、橋本首相(当時)がバーミンガム(イギリス)のG8サミットにて、橋本首相(当時)が中心となりG8各国が世界の寄生虫対策に取り組む必要性を宣言(橋本イニチアティブ)しました。その後、タイ、ケニア、ガーナに国際寄生虫対策センターがJICAの支援のもと設立され、寄生虫対策だけでなくその基盤となる学校保健の国際的普及に貢献。JICA支援終了後もJC-GSHRは本イニシアチブを継承し日本のフォーカルポイントとして活動を展開しています。
寄生虫対策センター設立の経緯と背景
FRESH : Focusing Resources on Effective School Health
1997年、橋本首相(当時)がデンバー(アメリカ)のG7サミットで国際寄生虫対策イニシアチブを提唱し、翌1998年、バーミンガム(イギリス)のG8サミットにて、橋本首相(当時)が中心となりG8各国が世界の寄生虫対策に取り組む必要性を宣言(橋本イニチアティブ)しました。
アジア、アフリカを中心とした開発途上国では、現在もなお、多くの人がマラリアや住血吸虫などの寄生虫、細菌感染症に慢性的に感染しており、死亡数は多くないものの人間の生活の質に大きく影響。世界的には熱帯地域、貧困層を中心に10億人以上がなんらかの寄生虫、細菌感染症に罹患していると推定され、中でも学童期の子供たちが最も多くの寄生虫に感染しています。更に、世界のグローバル化に伴い、感染症・寄生虫の問題は、単なる保健上の問題にとどまらず経済社会開発上の重大な阻害要因と認識されており、貧困削減の中心的課題の一つとなっています。
橋本イニシアチブを受け、開発途上国における寄生虫対策の人材育成、人材及び情報ネットワーク強化のため、日本政府推進のもとアジア・アフリカに人材育成と研究開発のための拠点として以下の3つの寄生虫対策センター拠点( CIPACs: Centers for International Parasite Control)が設立されました。
寄生虫対策センター拠点(CIPACs)
ACIPAC
2001年 国際寄生虫対策アジアセンター(ACIPAC)をタイマヒドン大学医学部に設立
参加国:カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴェトナム
ESACIPAC
2001年 国際際寄生虫対策東南アフリカセンター(ESACIPAC)をケニア中央医学研究所(Kenya Medical Research Institute: KEMRI)に設立
参加国:ケニア、スーダン、タンザニア、マラウィ、スワジランド、ルワンダ
WACIPAC
2004年 国際寄生虫対策西アフリカセンター(WACIPAC)をガーナ、野口記念医学研究所及びガーナ大学に設立
参加国:ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、コートジボアール、ガーナ、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、トーゴ
パートナー国の学校保健の政策マネージメントに資する多くの人材を輩出し、2008年にCIPACs (ACIPAC、ESACIPAC、WACIPAC)への支援としてのJICAプロジェクトとしては終了し、それぞれのカウンターパート機関に引き継ぎがれました。終了時には学校保健を基盤とした土壌伝播性寄生虫対策の普及のみならず、各パートナー国の学校保健の基盤を作ったことは大きく評価されています。特に各国の教育省と保健省が、CIPACs の取り組みによって協調を開始し、各国で国策としての学校保健プログラムが開始されるにいたっています。
また橋本イニシアチブは、WHOを中心とした熱帯病対策に関連した機関が、3 大感染症(ATM:エイズ、結核、マラリア)以外の慢性的に流行している17の重要な寄生虫、細菌感染症の疾患を、NTD (Neglected Tropical Diseases);顧みられない熱帯病としてまとめ対策に取り組むこととなり、WHO本部ではエイズ、結核、マラリア部門とならんでNTD部門が発足し2007年4月にはNTD国際会議が開催され、現在もなお、世界レベルでの取り組みが続いています。
CIPACsの現在
国際学校保健コンソーシャムはイギリス・インペリアルカレッジを基盤とした学校保健の国際シンクタンクであるPCD: Partnership for Child Developmentと連携して、2011年にタイ国マヒドン大学熱帯医学部のACIPACと関連機関と協議を行い、学校保健の新しい課題に対応できる人材育成の必要性を確認。このことにより、2012年から国際学校保健栄養研修が再開され、各国の教育省・保健省・UNやNGOのプログラムマネージャーに対する現任教育を行っています。
本研修は、研修参加者が聴講料を支払うことによって運営されていますが、ACIPACのパートナー国であったメコン圏だけでなく、広く東南アジア・南アジアの中低諸国からの参加者が得られ、研修の価値は広く認識されてきています。開発途上国の学校保健主要課題としての栄養対策は、単に土壌伝播性寄生虫の駆虫(De-worming)プログラムの拡大を図ることから、これらの継続性の確保と幕引きの道筋をたてることや、学校を基盤とした栄養補助(School feeding)や学校給食の展開にシフトしています。さらに過栄養等から起きる生活習慣病やメンタルヘルス等のNon communicable diseases、アルコールやドラッグ対策、暴力・外傷への対応、さらには増え続ける災害対策等、学校保健が対応すべき課題は開発途上国でも多岐にわたってきておりこれに対応した研修を展開しています。
ESACIPAC、WACIPACもアフリカにおける学校保健研修を継続して展開しており、2015年に行われたACIPACがあるタイ・バンコクで行われたWHO学校保健テクニカル会議においてもアフリカのフォーカルポイントとして再認識。国際学校保健コンソーシャムも研修講師の派遣や共同研究の実施に継続的に貢献しています。
橋本イニシアティブによる地球規模の学校保健
メコン流域での学校保健活動
ACIPAC(国際寄生虫対策アジアセンター)は、日本政府の国際寄生虫対策イニシアティブ(橋本イニシアティブ)の下、タイ国マヒドン大学および保健省の協力を得て、2000年3月から5年間のJICAプロジェクトとして設立された。本プロジェクトは東南アジア各国における寄生虫対策の推進に必要な人材育成を活動の大きな柱としている。この為メコン圏5カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴェトナム)の医療行政担当官を対象とした国際研修を行い、参加者が帰国した後にそれぞれの国内で学校保健を通じた寄生虫(ここでは主に土壌伝播腸管寄生虫とマラリア)コントロールの実施ができるよう支援した。また、他の国際組織(WHO、UNICEF、UNESCO等)と協働して国レベルでの学校保健を通じた寄生虫対策プログラムの実施を支援し、寄生虫対策だけでなく、教育セクター・保健セクター間の調整、国家タスクフォース・政策の形成、ライフスキル教育及び地域との協働など幅広い活動を実施した。ACIPACが提唱する学校保健を通じた寄生虫対策は、学童をヘルスパートナーと捉え、教師⇒学童のみの関係ではなく、学童自身が考え学ぶ動機づけを高めるための参加型教育を推し進め、学童が自ら作成したIEC(情報・教育・コミュニケーション)ツールを使用して、地域の人々へマラリアや寄生虫予防の普及を行うことも期待する、対象国にとって新しい教育概念であった。
プロジェクトはメコン圏5カ国において、日本の経験である学校ベースの寄生虫対策の推進や人材育成に大きな成果を残し、2005年3月に終了。現在は学校保健モジュール開発・普及スキル強化、南々協力の推進及びマヒドン大学熱帯医学部、国際交流ユニットの管理機能強化を目指した支援を行っている。
ACIPACの主な活動及び活動成果
開発途上国にて数多く行われてきた地域を基盤としたマラリア・寄生虫対策は、しばしば人材や費用不足の問題に直面していた。そこで費用対効果が高く、持続可能性のあるアプローチとしてACIPACが注目したのが学校保健を通した寄生虫対策である。長い間マラリア対策の重点対象は5歳未満の子供及び妊婦とされており、学童へのマラリア対策はあまり重要視されてこなかったが、流行地域で感染源となりうる学童の予防アプローチは地域全体の予防につながるため、マラリア対策として有効であると考えられた。また土壌伝播腸管寄生虫に関しても、タイ及びその周辺国の特に山岳地帯の学童は高い感染率を示していた。さらに、学校で行う衛生教育だけでなく、ヘルスプロモーションスクールやFRESHのような学校保健の枠組みあるいは政策を取り入れたものであることが重要である。学校保健を重点トピックとして捉える政府が少ないことや、効果が見えるのに時間がかかるなどの限界がある中でも、このメコン圏5カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴェトナム)での学校保健を通した寄生虫対策は大きな成果を残した。
Ⅰ.人材育成
学校保健を通した寄生虫対策が実施されることを目標として、メコン圏5カ国の健康教育に従事する国・県レベルの保健、教育セクター行政官および大学関係者を対象に、2001年から毎年タイのバンコクで「学校保健を通したマラリアと土壌伝播腸管寄生虫対策」国際研修を実施した。
この12週間の国際研修の中にはフィールド実習も含まれ、講義の講師はマヒドン大学熱帯医学公衆衛生、公衆衛生省疾病予防部、教育省基礎教育委員会、またその他私立機関等から招かれ英語で行われた。研修の中で参加者は自分の地域で実施しうるプロジェクト計画を策定することが義務付けられ、その計画されたプロジェクトが、ACIPACのもう一つの活動の柱である小規模パイロットプロジェクト(SSPP)としてつながっていった。SSPPは研修で得た知識を実践に移す場として、研修参加各国にて実施されたものである。研修はタイの2つの地域でのモデル学校での活動とリンクして行われ、2004年までの4年間で100人以上の研修員が受講し、研修後の知識率は向上し研修満足度も高かった。研修参加者の多くはその後も引き続き学校保健を通した寄生虫対策に関連した仕事につき、研修成果を持続性のあるものとしている。
その他、各国のプロジェクト従事者がよりよい活動にするための意見を交換し合う場として、国際寄生虫対策シンポジウムも関係機関との連携により共同開催された。
Ⅱ.小規模パイロットプロジェクト(SSPP)-マラリア、土壌伝播腸管寄生虫対策
研修で得た知識を実践に移し、管理能力を高める場として、研修参加各国にて2-3の小学校を対象とした小規模パイロットプロジェクトが各国政府の保健部門の支援のもと実施され、後にモデル地域内の他の学校へと拡大していった。最初の活動は土壌伝播腸管寄生虫の治療に加え、学童らが自分たちの目線でものを見、考え、創造していくことができる衛生教育を行い、続いてマラリアコントロールプログラムが取り入れられた。SSPPがそれぞれの国で、現状に見合った実際のモデルとなることを期待し、2003年に修正を加えた後のSSPP基本戦略は以下の通り。
Ⅱ-1. 小規模パイロットプロジェクト(SSPP)具体的活動
タイ (ナコンシタマラート州、ラチヤブリ州)
- 小学校教師用の教育マニュアルと学童用教科書開発(土壌伝播腸管寄生虫とマラリア)
- モデル地域の教師への研修
- 校内に土壌伝播腸管寄生虫とマラリア対策委員会設置
- 他教科の中に組み込む形でのマラリア教育導入
- 蚊の調査や住民へのインタビュー調査などの学童フィールド実習
- 学童がプロモーターとなり家族や地域へ健康情報を普及(ニュースレター発行、地域内に掲示板設置、地域内でのイベント開催等)
SSPP導入前から、学校教師らはマラリア教育の重要性を認識していたものの、カリキュラムに入っていなかったり、また教材不足により実際には広く行われてはいなかった。SSPP導入後は、教育セクターと保健セクターの両方に学校保健アプローチが受け入れられ、積極的なマラリア教育が実施され、学童らのマラリア予防のための行動変容が認められた。さらに、モデル学校で使用されたACIPACの土壌伝播腸管寄生虫教育教材はその後、より広範囲の地域で採用され、英語の翻訳版がタイ近隣諸国やケニア、東ティモール、また国際組織やNGO等にまで普及した。
タイ (ナコンシタマラート州、ラチヤブリ州)
- 1年に2回の便陽性学童への選択的治療(2002)、1年に2回のブランケット治療(2003)
- ポスターを用いた寄生虫対策授業
- 毎週のラジオによる健康教育校内放送
- Child-to-Childアプローチを取り入れた健康教育カリキュラム
- 高学年の中から選ばれた児童らが衛生に関する2日間の研修参加
- 研修参加児童から他の児童へ個人の衛生管理や寄生虫予防の普及(児童作成のイラストや物語をツールとして使用)
- 研修参加児童から地域の人々へイラスト等を使用して土壌伝播腸管寄生虫とマラリア予防の普及
- 地域内のトイレ設置
ラオス(シエンクエン省ペク県)
- 便陽性学童への選択的治療
- 教師の土壌伝播腸管寄生虫に関する知識の向上
- 学童の土壌伝播腸管寄生虫予防に関する行動変容(食前や外遊び後の手洗い等)のための実践的教育
- 地域の人々らの一部共同出資による学校の水場建設
ミャンマー(ヤンゴン北部 タイキー市)
- 便陽性学童への選択的治療
- 教師の土壌伝播腸管寄生虫に関する知識の向上
- 学童の土壌伝播腸管寄生虫予防に関する行動変容(食前や外遊び後の手洗い等)のための実践的教育
- 地域の人々らの一部共同出資による学校の水場建設
ヴェトナム(タイグエン省ドンハイ県)
- 1年に2回の土壌伝播腸管寄生虫集団治療
- 月に一度、カリキュラムの中の健康教育の一つのトピックとして土壌伝播腸管寄生虫予防教育実施
- 2004年、モデル学校でのヘルスプロモーションキャンペーン開催(ゲームや物語、ロールプレイを通した健康教育の実施)
- ヴェトナム教育省より各学校へ健康教育のためのIEC物品セットの全国的配布
- 地域への健康教育ラジオ放送
以上の様に、同じコンセプトからそれぞれの国の状況に応じた異なった効率的戦略がなされ、成果をあげた。プロジェクト対象校の学童の間で、土壌伝播腸管寄 生虫の発生率の低下、寄生虫感染予防の知識の向上及び個人の衛生行動の変容が認められ、さらに教師の教育能力の向上や学童のライフスキル能力の向上なども 認められた。これらSSPPの施行は、対象国での教育セクター、保健セクターの連繋によるタスクフォースの形成、ドナー間のパートナーシップ形成、マラリア学校教育の戦略作り、あるいは学校保健等に関する国家政策の策定にも多大な貢献をした。
さらに、学校保健アプローチによるマラリア対策の有用性を示したことは世界的にも新しく、日本政府のリードによる新たな分野開拓も、大きな成果であろう。
Ⅱ-2. ACIPACが開発した教材
Ⅱ-3. 学校保健ベースのマラリア対策
マラリアコントロールの主な対象は5歳未満の児童および妊婦であり、学童は直接的対象者ではないため、ACIPAC活動当初、学校ベースのマラリア対策は効果的戦略としては評価されていなかった。ACIPACは2003年より、主体的参加による学習と行動(PLA: Participatory Learning Action)アプローチを用いた学校保健ベースのマラリア教育を導入した。つまり、学童が単なる健康教育の受け手ではなく、ヘルスパート ナーとして地域の人々へのマラリア予防の啓発活動を実施した。その成果として、タイでは教育省のマラリア危険地域のカリキュラムに組み入れられ、カンボジ アでは、研修生の提言により、グローバルファンドの戦略の中にマラリア教育が組み込まれた。ラオスでは、既存の健康教育機材(IECキット)に、マラリア教材が盛り込まれ、また、学校において学童への主体的参加による学習と行動アプローチの導入によりコミュニティーの人々の行動変容をもたらすことが明らかとされた。ミャンマーでは、モデル校の実施により、保健セクターの学校保健ベースのマラリア教育への認識が高まった。
さらに2005年のWHO総会において、ACIPACによる学校保健ベースのマラリア対策の有効性の提言を受け、その後のWHOのマラリア戦略の中に教育セクターが初めて組み込まれ、学校保健ベースのマラリア対策はアジア発信の世界戦略となった。さらに、世界銀行のマラリア対策の中にも、学校保健が明記されている。
一方、ケニアのマラリア流行地域において、5-18歳の学童に対するマラリアの間欠予防治療(intermittent preventive treatment)が、貧血発生率減少や、授業の注意力向上に対して効果があるとの研究結果が2008年に発表された。国あるいは地域別のマラリア流行状況に合せて、効果的なマラリア対策が異なってくる、といったことも示唆される。
(Clarke SE, Jukes MC, Njagi JK, Khasakhala L, Cundill B, Otido J, et al. Effect of intermittent preventive treatment of malaria on health and education in schoolchildren: a cluster-randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008 Jul 12;372(9633):127-138.)
Ⅲ.包括的学校保健普及への展開
Ⅲ-1. 包括的学校保健普及への展開
ACIPAC は、戦後日本での寄生虫対策の経験とヘルスプロモーションスクールの概念とを組み合わせ、駆虫薬投与のヘルスサービスや環境整備のみならず、学童らのライ フスキルを高める教育や学校保健政策作成支援も含んだ、包括的学校保健アプローチを提案、実施してきた。そしてその前提として、帰国研修員、周辺国関係省 庁、国際機関、ドナー、NGOなどの関係者を含めた国際/国内レベルでのパートナーシップ形成及び寄生虫対策の国際連携体制の構築の中心的役割も果たして きた。その上で、各国での教育省と保健省を中心とした学校保健の実施母体を形成していった。ACIPACが推進してきた学校主体による包括的学校保健アプ ローチの仕組みづくりは、寄生虫対策を超えて、マラリアやHIV/AIDS、そして結核対策にも応用が可能であると考えている。
Ⅲ-2. ラオス・カンボジアでの学校保健政策策定
ラオス
2010年5月21日 ラオスの学校保健政策の改定版が完成し、
保健大臣と教育大臣による調印式が行われた。
Ⅲ-3. モニタリングと評価のシステム構築
タイでは、20万人に上るとも推定されるミャンマー人が移民として暮らしている。相当数の児童が存在していると考えられるが、移民は、医療などの社会サービ スへのアクセスも限られており、また、滞在資格などの問題から外部からの接触が難しい側面もあるため、その児童の保健や健康問題についてこれまで体系的な 調査や介入が実施されることはあまり無かった。
タイのターク県は、主要なタイ国内のミャンマー移民の流入ポイントの一つであり、多数のミャンマー移民が暮らしている地域である。多くのミャンマー移民の児 童が、言語、宗教等の問題から、ミャンマー人移民自身によって運営されている学校に通っている。2008年では、把握されているだけでもターク県内に54 学校が存在し、約8,000人の学生が在籍していたが、タイ政府の学校保健推進活動は、これらミャンマー人移民学校をカバーしていなかった。
以上のような状況により、地元移民コミュニティの協力を得て、児童の教育と健康の質の向上を目標とし、学校保健推進プロジェクトを実施した。まず、2008 年2月のベースライン調査では、学校保健を包括的に評価する他記式質問票により、44校の評価調査を実施した。調査票は1)パーソナルスキル、2)学校の 環境、3)ヘルスサービス4)疾病コントロール5)コミュニティとのパートナーシップの5つのパートから、各学校の状況を評価するものであった。その後、 同年7月に、この評価調査の結果を踏まえて学校長や教師を招き、介入となるワークショップを開催し、各学校の改善優先項目の選定がなされた。2009年2 月に、改善の進捗状況を測るため、介入後の学校保健評価調査が実施した。ほぼ全て学校で総合評価が上昇している結果となった。その後、表彰制度の導入が検 討され、ゴールド、シルバー、ブロンズ・レベル校の認定基準を策定し、2009年7月に基準を満たした7校に対してブロンズ・レベルの認定を行った。認定 は表彰式を地元ミャンマー移民コミュニティと共同で開催し、地元タイ教育関係者も招いて盛大に行った。
以上のような活動によりそれまで把握されていなかった移民学校の学校保健の状況が初めて体系的に評価され、また、各学校では、その改善点が個別に検討される機会が与えられることとなった。現在、教師自身による自己評価体制の設立を計り、事業を展開している。
Ⅳ. ACIPAC活動における研究結果
Yoshimura N, Jimba M, Poudel KC, Chanthavisouk C, Iwamoto A, Phommasack B, et al. Health promoting schools in urban, semi-urban and rural Lao PDR. Health.Promot.Int. 2009 Jun;24(2):166-176.
Nonaka D, Kobayashi J, Jimba M, Vilaysouk B, Tsukamoto K, Kano S, et al. Malaria education from school to community in Oudomxay province, Lao PDR. Parasitol.Int. 2008 Mar;57(1):76-82.
Takeuchi T, Nozaki S, Crump A. Past Japanese successes show the way to accomplish future goals. Trends Parasitol. 2007 Jun;23(6):260-267.
Kojima S, Aoki Y, Ohta N, Tateno S, Takeuchi T. School-health-based parasite control initiatives: extending successful Japanese policies to Asia and Africa. Trends Parasitol. 2007 Feb;23(2):54-57.
Kobayashi J, Jimba M, Okabayashi H, Singhasivanon P, Waikagul J. Beyond deworming: the promotion of school-health-based interventions by Japan. Trends Parasitol. 2007 Jan;23(1):25-29.
Okabayashi H, Thongthien P, Singhasvanon P, Waikagul J, Looareesuwan S, Jimba M, et al. Keys to success for a school-based malaria control program in primary schools in Thailand. Parasitol.Int. 2006 Jun;55(2):121-126.
Kojima S, Takeuchi T. Global parasite control initiative of Japan (Hashimoto Initiative). Parasitol.Int. 2006;55 Suppl:S293-6.
Kojima S, Looareesuwan S, Singhasivanon P, Takeuchi T. The Asian center of international parasite control (ACIPAC): five years of achievement. I. Introduction. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2005;36 Suppl 3:1-12.
Waikagul J, Singhasivanon P, Supavej S, Rojekittikhun W, Suphadtanaphongs W, Leemingswat S, et al. The Asian Center of International Parasite Control (ACIPAC): five years of achievement. II. ACIPAC human resources development. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2005;36 Suppl 3:13-16.
Joongsuksuntigul P, Thongthien P, Sirichotiratana N, Okabayashi H, Jimba M. The Asian Center of International Parasite Control (ACIPAC): five years of achievement. III. School health for parasite control in Thailand: a review and current model activities. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2005;36 Suppl 3:17-27.
Kabayashi J, Socheat D, Phommasack B, Tun A, Nga NH. The Asian Center of International Parasite Control (ACIPAC): five years of achievement. IV. Activities in partner countries (Cambodia, Lao PDR, Myanmar and Vietnam): small scale pilot project (SSPP) and other impacts. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2005;36 Suppl 3:28-40.
The Asian Center of International Parasite Control (ACIPAC): five years of achievement. V. Evaluation of the ACIPAC project. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2005;36 Suppl 3:41-73.
Tomono N, Anantaphruti MT, Jongsuksuntigul P, Thongthien P, Leerapan P, Silapharatsamee Y, et al. Risk factors of helminthiases among schoolchildren in southern Thailand. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2003 Jun;34(2):264-268.
Anantaphruti MT, Jongsuksuntigul P, Imsomboon T, Nagai N, Muennoo C, Saguankiat S, et al. School-based helminthiases control: I. A baseline study of soil-transmitted helminthiases in Nakhon Si Thammarat Province, Thailand. Southeast Asian J.Trop.Med.Public Health 2002;33 Suppl 3:113-119.
西アフリカ地域での学校保健活動
WACIPAC(国 際寄生虫対策西アフリカセンター)は、日本政府の国際寄生虫対策イニシアティブ(橋本イニシアティブ)の下、学校保健を通じた寄生虫対策モデルの確立、研 修及びワークショップの開催、情報ネットワークの構築等を目標として、ガーナ、野口記念医学研究所及びガーナ大学に2004年に設立され、5年間の予定で WACIPACプロジェクトが開始された。重点支援国はガーナ、ベナン、ニジェールとされ、周辺国政府の保健省及び教育省からのプログラムマネージャーを 招聘し、人材育成のための国際ワークショップや国際研修が行われた。
2008 年のプロジェクト終了時評価では、各国に学校保健の政策と、保健セクターと教育セクターをまたぐシステムが構築されたことが確認され、広域プロジェクトに よって、プロジェクトからの技術支援に加えて多国間の意見情報交換が行われ、各国の政策・戦略策定が二国間援助よりも効率的に実施できたことが評価された。
2008年1月、WACIPACの自立発展性を確保するべく、WACIPACの機能が正式にWAHO(西アフリカ保健機構)に統合され、さらにメンバー国以外の西アフリカの6カ国に対してもプロポーザル支援について協力を得られるよう働きかけている。
Ⅰ. ACIPAC活動における研究結果
周辺国政府の保健省及び教育省からのプログラムマネージャーを招聘し、寄生虫対策推進の共通認識を得るための国際ワークショップが計2回開催され、さらに、メンバー国の政策立案者、プログラムマネージャーが学校保健をベースとした寄生虫対策の知識や技術を獲得することを目標として、寄生虫予防及び学校保健政策強化のための国際研修が計5回実施された。研修を受けた延べ人数は、当初計画の100人を超えた。また、研修終了後には研修参加者に対するフォローアップ訪問を計16回実施し、メンバー国の寄生虫対策活動を支援してきており、その有効性が各国から評価されている。
Ⅱ. インパクト
Ⅲ-1. 学校保健スーパーバイズのための組織構築
2006年より、ACIPACでの経験がWACIPACに移転され、ヘルスプロモーティングスクールの概念のもと、モデル学校にて集団駆虫及び学校保健を通した保健衛生教育(ここでは住血吸虫症、土壌伝播線虫症、マラリア予防)が行われ、IECツールも開発された。重点支援国では、WACIPACが支援した駆虫モデルや学校自己評価シートの開発に基づき、国家レベルでのスケール・アップ(普及)が現在、進行中である。また、それ以外のメンバー国においても、国際研修で得た知見・経験やWACIPACのフォローアップ訪問を通して、省庁間委員会の形成、駆虫プログラムの実施、学校保健政策・ガイドラインの策定等が促進されてきた。また、10のメンバー国に国家プログラムとしての学校保健管理システムの設置の支援を行い、ナイジェリア、セネガル、ベニン、そしてニジェールでは国家学校保健政策を発展させ、国家レベルの学校保健プロジェクトの開始に至った。
Ⅲ-2. 学校保健スーパーバイズのための組織構築
ベナン
国際研修に参加した保健大臣と教育大臣が、2006年に学校保健に関する政策文書を策定した。この政策が策定されたことによってWACIPACの支援する小規模事業と開発パートナーとの連携の枠組みが作られた。現在、ダンボ地区での土壌伝播寄生虫症の対策活動がモデルとなり、全国展開が計画されている。
ニジェール
WACIPACの研修生によって国レベルでの学校保健政策が策定された。また、FRESHの4つのコンポーネントのひとつである環境に特化した自己評価方法を、2つの県で配布し、環境改善が見られたという報告がある。現在、エビデンスを確認中である。