国際学校保健コンソーシアムの趣旨

目次

国際学校保健コンソーシアムは、2010年に国際的な学校保健ネットワークのシンクタンク及び連携強化を図るハブとしての機能を果たすために設立さました。国際学校保健コンソーシアムは、幼児後期、学童期及び思春期の子どもの健康と、子ども達が所属する地域社会の健康増進を目指して行われる学校保健プログラムの適切な実践と普及を支援しています。

挨拶:国際学校保健コンソーシアム設立にあたって

 国際的にも教育のなかで、地域保健のなかで学校保健の重要性はさらに各国で認識されてきています。健康づくりは欠席率の低下や学業成績の向上につながること、感染症対策・栄養だけでなく生活習慣病やメンタルヘルス等の地域保健の課題に学校保健からのアプローチが重要であること両面から認識が高まっています。2020年から世界を襲った新型コロナウイルス感染症パンデミックの対応においても、学校での感染対策だけでなく、メンタルヘルスや栄養サービス、さらには虐待から子供を保護する点においても学校保健は再認識されています。

 2010年に立ち上げ12年目になりました。アジアを中心とした各国の学校保健の政策策定・実施の人材育成を通じた政策策定に一定の成果を得てきました。また小児科学会の御協力により日本型学校保健と、学校保健の国際普及における日本の貢献についての特集号をPediatrics International誌に特集号を成功裡に発刊することができ、国際会議だけでない知見の国際発信も成果をえることができました。今後は12年というのは推進する人材が入れ替わっていく期間でもあり、次世代へのバトンタッチが最大の課題といえると思います。この点から鑑みて新たな課題に対応できる政策策定・実施者と研究者育成を低中所得国各国と日本において進めていくことを今後12年の課題として取り組んでいきたいと考えております。

 このような中、組織として個人としてのネットワークが益々重要であることは言うまでもありません。今後とも皆様の御協力を宜しくお願い申し上げます。

2022年1月4日
理事長 小林潤

次世代の学校保健を目指して

 2010年はMDG(ミレニアム開発目標)が、国際開発や国際保健のなかで実に多く語られ討議された年でした。開発途上国においての学校保健はMDGのGoal6(HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止)に関連して注目をされ急速に世界的に普及していきました。これには橋本イニシアチブによる寄生虫対策やHIV-AIDSでの健康教育があげられます。

 一方現在、MDGのGoal5(妊産婦の健康の改善)が世界的に達成されていないことから母子保健に注目が集まっています。学校保健は今後世界の潮流のなかで注目されなくなってしまうのかというと、実はさらに推進されていく大きな可能性を秘めていると私は考えています。すでにMDGの次にくるものを模索する作業はあちこちで始まっていますが、MDGでは取り上げられなかった、生活習慣病、メンタルヘルスや外傷といった問題は、先進国だけでなく開発途上国でも大きな問題として考えられるようになってきています。例えば、世界的に解決していない貧困による肥満、アジアで進んでいる都市化のなかでのメンタルヘルスや外傷の重要性があげられますが、これらを効率的に改善していく可能性を学校保健は実は秘めているといっていいでしょう。さらには、人間の健康像を考えるときに、単なる健康から幸福を考えるような動きもヘルスプロモーションのなかでありますが、これに関しても実現性の高い場として学校保健は注目されてきています。

 このような中、橋本イニシアチブ事業で形成されたネットワークの中で、次世代の学校保健を模索する動きもでてきており、これに対して日本からの発信と貢献が期待されています。これには、研究会皆様の協力と経験が是非とも必要になっており、世界のよりよい健康づくりのために今後とも御協力のことよろしくお願い申しあげます。
現在、欧米のみならずタイ等の中進国では、教育学、疫学、健康教育学、寄生虫学、人類生態学、経済学、政策学等々幅広い分野の協力によって学校保健の研究・支援がなされてつつありますが、日本においても同じように他分野の研究者の会が構築されていけばと考えております。特に途上国においては固定観念にとらわれず柔軟に時代にあった概念やアプローチの開発が必要であるため、他分野間の情報・意見交換から新しいものが生み出されると考えております。 

コンソーシアムが行う主な活動

1)学校保健に関わる実践と研究

国際学校保健コンソーシアムのメンバーは、アジアやアフリカの開発途上国において、多様な研究プロジェクトや実践活動を行っています。また、実施されている活動は、持続的な学校保健活動のための人材育成や、感染症及び非感染症対策など、多岐に渡ります。

2)学校保健の実践に関する技術支援及び人材育成と研究

開発途上国の政府職員や地域で働く国際NGO職員等を対象として、学校保健の運営と管理に関する国際研修コースを企画、運営しています。国際学校保健コンソーシアムには、学校保健に関する政策立案や健康教育の教材開発、そしてアジアやアフリカの開発途上国における学校保健研究の専門家が所属し、当該領域の人材を育成するための活動を展開しています。

3)研究及び実践ネットワークを活用した若手研究者及び実践家の育成

定期的な勉強会や、日本国内外で行われる学術集会でのシンポジウム、ワークショップ、及びラウンドテーブルなどの企画を通して学校保健の実践と研究に関わる最新の知見を共有し、若手研究者及び実践家の育成を図っています。

4)学校保健に関わる実践や学術的な研究成果の普及

医学、公衆衛生学、教育学、人類学、社会学など、様々な視点から、政策分析、介入研究、文献レビューなど多岐に渡る手法を用いて、学校保健に関わる実践や理論に関する学術研究を実施し、その成果を国際的に発信しています。

5)国際的なパートナシップ(連携)の強化

学校保健に関連した学術研究の促進のために、世界の様々な研究機関との研究ネットワーク強化を進めています。また、学校保健の実践の世界的な推進のために、アジアやアフリカの開発途上諸国の学校保健に関連する省庁、WHOやUNESCOなどの国際機関、国際的なNGOなどと連携した技術支援活動を実施しています。