ラオス農村地域における学校保健支援 青森県立保健大学看護学科助教 山本加奈子
チェックリストに基づき、学童の衛生や学校環境をチェックし、点数をつけていく。
写真は、県のスタッフが手の衛生、爪切りについてチェックしているところ。
郡都に近い学校より、遠く離れた学校の方が学童の衛生についての点数は低かった2005 年4月~2008年3月の3年間、日本財団の支援を受け、ラオス北部ルアンパバーン県の農村シェングン群の9校の小学校をターゲットとした学校保健活動を 行った。1年目に消化管寄生虫症の実相調査と既存の保健システムの情報収集・現状把握を行なった。2年目からは、活動終了後の持続可能性を視野に入れ、県 中央ではなく、郡・地域レベルに学校保健活動の人材を育成していくことに重点を置き、現地のスタッフ主導の活動に移行した。この結果、学校保健活動のフォ ローアップ増及びコスト縮減化を可能にし、各学校での保健活動の主体的な実施が期待された。本活動の実施体制は、教育省・保健省・WHOスタッフ-県教育局・保健局スタッフ-郡教育センター・保健センタースタッフ-学校長・教員と いう実務的な形で機能し、県及び郡スタッフ並びにルアンパバーン県シェングン郡の9名の校長に対する指導・研修を実施した。その後、学校単位で各校長等を 通じた全教員に対する指導・研修を実施し、学校保健活動について共通理解を得た上で、学童の衛生状態や衛生管理などの学校別の評価を踏まえて、各地域・学 校に適した保健活動の計画作成、実施、評価に取り組んだ。3年目は各学校別保健活動計画について、郡スタッフが巡回し、同計画の評価・フォローアップを行 なってきた。具体的には、校長・全教員が同計画書に関連した問題を明確化し、その解決策をより具体化するための助言・指導を郡スタッフが行い、また、学校 側は実施可能なものから順次実施していった。実施上、経費を生じる場合は、学校や住民が負担することを基本原則とし、支援が必要な場合は、自助努力を含め た詳細を明確にした計画書と申請書を郡スタッフ、校長及び全教員が協議・作成し、県スタッフに提出し、県スタッフ、WHOスタッフ及び申請者の3者協議の 上、当該申請の可否を決定した。校長・全教員が主体的に計画、実施、終了時評価を行い、また、全段階において、郡スタッフが適宜巡回を通しての助言・指導 を行ってきた。年に2回県スタッフとともに学校を巡回し、各学校の保健活動に関して総合的に評価し、その専門的内容のみならず円滑且つ主体的な実施がなさ れるべく現地スタッフへの助言・指導を行なってきた。不在時は、WHOスタッフの協力を得ながら、県スタッフを窓口として、学校(校長以下全教員)及び郡 スタッフによる主体的な活動となるように遠隔助言・指導をおこなってきた。2 年目の2007年3月には各学校で自己評価を行った後、問題点の抽出と今後の活動の計画を立ててきた。ほとんどの学校で、学童への衛生教育の充実と、学校 の美化が具体的な活動目標にあげられ実施されてきた。具体的には、授業時間内での定期的な衛生教育が実施されるようになり、学童は主体的にトイレを使用 し、手洗いをするようになった。水道のない学校では、村から水を持参したり、近くの川から汲んでくることが習慣化された。学校の美化としては、「お金をか けずにできることからはじめる」という主旨のもと、すべての学校で、ごみ捨て場(焼却場)が掘られた。その他、ゴミ箱や掃除道具が設置された学校、石鹸が 設置された学校などもあった。また、学校周囲の道や柵が修繕されたり、花壇が整備される学校もみられるようになった。
初 回の評価では、どの学校も賞には手が届かなかったが、3年目の最終の評価時には、9校中3校が銅賞になった。受賞した3校は比較的郡都に近い学校であり、 郡都から離れた学校ほど評価点が低い傾向にあり、特に郡都からも遠い農村部の学校でのフォローの強化が必要である。また、農村地域の特徴から、評価項目で もある、食堂(売店)が設置されている学校はなく必然的に点数が低くなることや、水道やトイレのない学校については、解決の目処はついておず、予算の捻出 なども今後の課題である。
ルアンパバーンの県都から約28kmに位置するシェングン群を中心に9小学校で活動
国道は舗装されているが、未舗装の道路がまだまだ多い。国道沿いにある学校もあるが、多くは写真のような道路が生活道路となっている。
ラオスの学校には教科書がなく、学童は先生が書いた黒板の内容をノートに書き写す。しかし、ノートを持っていない学童も多くいる。
県の学校保健人材の育成のため、教育省とWHOのスタッフと協力して、県の保健局と教育局の学校保健担当者に、学校保健の目的や具体的方法、学校評価の方法などについてトレーニングを行った。彼らが次に郡の学校保健担当者、学校教員に対し、トレーニングを行う役割を担う。(2006.8)
トレーニングを終了した県の学校保健スタッフが、郡の学校保健担当者、対象校の校長に対し、トレーニングを行った。この後、学校長が、各学校で学校の保健に関する評価を行い、問題点を抽出、問題解決のための計画を作成、実施していった。また、各学校の活動を、郡のスタッフがフォローしていく。さらに、県のスタッフが郡の活動に対し、スーパーバイズを行った。(2007.1)
トレーニングで学んだ内容を自分の学校の現状に合わせプレゼンテーションする校長 (2007.1)
2007年1月にトレーニングを終了した校長はそれぞれの学校の他の教員に伝達講習を行い、学校保健についての共通の認識を得ていた。さらに、既存のチェックリストに基づき、それぞれの学校で自己評価を行っていたため、その妥当性について、再度県、郡の職員が評価しランク付け、問題点の抽出、解決法の具体化をした。写真は、郡のスタッフが校長に自校の学校保健全般について聞き取り調査を行っているところ。(2007.3)
郡のスタッフが学童の髪の毛の清潔、耳の清潔を念入りにチェックしている。
多くの学校でゴミ箱が設置され、学校の環境整備が少しずつされてきた。
「お金をかけずに解決できる問題から解決していこう」という考えのもとに、ほとんどの学校の最初の活動として、ゴミ処理場が掘られた。校庭などにゴミが見られなく、きれいになった。これらのゴミは貯まり次第焼却される。
校庭脇に手洗いスペースを作り、石鹸を設置した学校もあった。この学校の水道は年中渇水しており、村から水を持って通学しているものの十分な量の水で手洗いができないのが問題。
工芸の授業の中で竹を利用し手洗い用の筒を作成し、使用している学校もでてきた。ラオスの伝統的なタライに水を貯めて洗う方法よりも、清潔度が高く、理想的だ。
明らかにトイレを利用する学童が増えた学校。トイレも清潔に掃除されていた。トイレに利用する水は少ないながらも足りていた。
手と足をすすんで洗う学童が増えてきた学校。
乾季は渇水のため山水が少なく、水瓶の水も少なく、低学年の学童は水を汲むのに一苦労。
写真は学校内にある「ナムリン」といわれる山から水を引いてくるもので、村人も利用する。しかし、乾季は夕方5時以降でないと水が出てこないため、バケツやタンクを置き順番待ちをする。この学校(村)も渇水が大きな問題となっている。
学校環境の整備も学校保健活動の大事な活動。計画通りに学校周囲の柵の整備を行った学校。
教師は学校の授業の中で、衛生教育キット(ブルーボックス)を使用し、自主的に衛生教育を行うようになった。
2008年3月、活動の最終報告会の様子。ターゲット9校の校長と、県、郡のスタッフが集まり、2年間の活動の内容、反省、今後の活動予定などを報告し合った。
2008年3月、活動の最終報告会の様子。ターゲット9校の校長と、県、郡のスタッフが集まり、2年間の活動の内容、反省、今後の活動予定などを報告し合った。
最終報告会後の集合写真。2年間頑張ってきた学校保健プロジェクトメンバー。
なお本活動は、日本財団の助成を受け、(社)協力隊を育てる会の「国際支援夢プロジェクト」の一環により行ったものです。
実施にあたり様々なご指導・ご助言を頂きました日本財団国際協力グループの佐藤英夫様、小澤直様、ならびに細かな調整を頂きました協力隊を育てる会の菊池威臣様に心より感謝申し上げます。
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